■TRPG四方山話 「D&Dとは、常に二手三手先を考えて行なうものだ」

 
 今回は第7回の続き的話でもある。

 “海洋”キャンペーン第3回レポへの拍手コメントより。
>策を弄する敵には裏をかく戦法じゃないとキツいと思いますが…。それにしても万全の用意じゃないとヤバい難易度のクエ
>ストが多いですね。


 うむ! 数々のレポを読むと「○○を用意していなかったが為に苦労する」というシチュがかなり多いためにそういった印象を持ってしまうのはやむを得ない!
 これは実のところ、国産RPGしかプレイしたことが無い人の多くが、D&Dをプレイするようになった際に直面するギャップであるとワダツミは思っている。

 ぶっちゃけると、国産RPGとD&Dの極めて大きな違いはこう。

・国産RPG(の全部がそうというわけではない。誤解するな)
 パーティーの能力が汎用性に優れ、戦術レベルで機転を利かすことで大抵の困難は乗り越えられる。ゲームとしてのバランスもそういった「詰まない優しさ」が前提となっている。
・D&D
 キャラのポテンシャルは無限の可能性を持っているのだが、それを引き出すには事前準備が必要とする割合が極めて高い。裏を返せば「迂闊な行動で詰む」ことを仕様として容認されている。

 極端な話、D&Dは同じ敵と戦っても「相手の能力がわからない」場合と「敵の弱点を把握し、準備万端」な場合では天と地ほどの差が出る。前者は1ダメージも与えず一方的に殲滅され、後者は1ダメージも受けずに完勝することが往々にして起こり得る。敵の絶対的な強さはまったく変わらないのに。
 なので「最初の遭遇で威力偵察し、出直して勝利する」というのは王道ともいえる戦術。DM側も適宜「時間がそれを許さない」という状況を設定することで対応可能。

 となれば(例えば)ソードワールドのつもりでD&Dをやれば苦戦は必至。魔法使い一つとっても大きく違う。
・ソードワールド
 基本的に存在する呪文を精神力の許す限り全部自由に使える。
・D&D
 千種類以上ある呪文の中から選んだものを、まず呪文書に(個別に費用を伴い)書いて覚えないといけない。さらに「その日に使う呪文」を毎日選んで指定しておかないといけない。これはそれぞれの呪文レベルで数回ずつだ。

 唐突な空中戦を余儀なくされてもソードワールドならいつだってフライを使えるが、D&Dは備えておく必要がある。
 そこで便利なのがスクロールやポーション。これは有料かつ消耗品だが、「自前では不足するほど頻繁に使う呪文」や「いざという時にこれがないと詰むが、普段は使わない呪文」の使用回数を補う為に必須のアイテム。D&Dはこれをバンバン使って困難を乗り越えるのを前提に、ゲームバランスが組まれている。
 元々ソードワールドはD&Dをより一般向けするようにシビアさを取り去ったシステムなのだから、当然ともいえる。膨大なD&Dの呪文から、冒険に欠かせない必須呪文を中心にコンバートしたのがソードワールドの呪文リストさ。だからレパートリーを補う為、消耗品に頼らなくても困らない。

 で、当然最初からそんなハードなバランス感覚の違いを「死んで覚えろ」とやるのは趣味じゃない。「D&Dは死んで覚えるもんだろ」というスタンスの人も多々いるであろうが、自分は違う。
 というか自分が初めてDMをやったキャンペーンは、中学からの付き合いで様々なシステムを合計数百回はプレイしているメンツがメインだったのだが、物の見事に「一度ダンジョンに潜ったら休憩なんてしないもんだ。それで勝てるようにできてるのが基本」という国産RPGマインドで突っ走って全滅確定したので、慌ててボスを弱体化して回避した。結局続く数回の冒険でこのパーティーは全滅するのだが、それでお互いが教訓を得たわけだ。

 件のプレイにおいてクレリックを担当し、今回の“海洋”キャンペーンではウィザードを演じているプレイヤーはその特攻ぶりを当時のプレイ感想でこう語ったものだ。
「攻略中に呪文が尽きてしまって、HPも満足に回復出来ない状況になったんですよね。まだ出口の見えないダンジョン、進めば全滅確実ということはわかっていました。
 しかし、我々には「進む」以外の選択肢があるということすら思いつかなかったのです。つまり、全滅するか、なんとか地上に生還するか、の二択。ドラクエ流といいますか。
 私のTRPGの経験は昔にやっていたソードワールドで、一度ダンジョンに入ったらボスを倒すまで魔法や体力がもつのが普通だったので、呪文がきれたらいったん戻って休んで呪文回復、のようなD&Dの定石がまったくわかってなかったんですね」

 そして今回のレポートを読んで呟いた感想が……。
「なんか初回にやらかした特攻プレイを思い出したよ」
 だった(笑)

 
 でまぁ例えば今回の“海洋”キャンペーンの状況を突っ込んで説明すると、下記準備を怠ったゆえに大変な苦戦を強いられているわけだね。

・戦闘職が弓などの遠距離攻撃武器を持っていなかった。
 1レベルの時点ですら持っていて然るべき。
・野営のために痕跡を消す1レベル呪文を用意していなかった。
 さらに敵陣にドンドン近付いてしまったので、連続夜襲を受けるのは「覚悟の上」だった。
・銀の武器を用意していなかった。
 D&Dはこういったダメージ減少を突破する為に予備武器を揃えるのは必須行為。魔法の武器と比べて遥かに安価であり、銀のダガー程度ならレベル1でも買おうと思えば買えるし、2、3レベルになる頃には銀製のロングソードといった主武器級を揃えておいて当然。
・敵に術者がいるのを確認していたが、ディスペルマジックを用意していなかった。
 その分他の呪文は充実したともいえるので、賭けに負けた。

 客観的に見て「この要求がシビア」と感じるかは個人の感覚に委ねるとして。
(一応ワダツミとしての考えは反転表示させる事で読めます)
 一人のマスターとしての主観を言わせて貰うなら、D&Dのプレイ回数100回以上を筆頭に、40回以上や最低でも10回はプレイしているメンツで構成されたパーティーは、これに対して「難易度高過ぎるだろ」と文句を言っていい程初心者集団じゃないと認識しているですのだ。もちろん、プレイヤー達がそんな文句を言うことはなく、納得してくれているにょろ。

 誤解しないで欲しいのは「D&Dと比べれば国産RPGなんて温いだけのオママゴトさ」なんて言うつもりはサラサラ無いということ。冒頭の漫画でもあるとおり、「そーいうシステム」「そうでないシステム」があるというだけだから。国産RPGにだってシビアなのはあるし。少数派なだけで。
 ノリよく気軽に遊びたいと思ってる人がD&Dやればそりゃ厳し過ぎるし、ガチで挑んで勝利するカタルシスが欲しいって人なら、タクティカルな比率が高いD&Dをやればいいのだ。
 もちろんD&Dだってあらゆる状況を甘く処理し、ドタバタ楽しむことも可能であり、予定調和大いに結構。それで楽しいプレイだってあるさ。
■TRPG四方山話 「読子さん、絶版(かも知れない)ですよ」

>3.5版PHB絶版(?)とパスファインダーの価値
 今回はこちらの記事を読んで、放蕩TRPG部員向けに書いたテキストの加筆修正版です。

 
 現在ダンジョンズ&ドラゴンズ第3.5版のプレイヤーズハンドブックが入手困難になっているらしい。
 最新は第4版であり、それを売る為には第3.5版の市場は縮小したいのが製造元の思惑って奴なのかもしれない。例え3.5版と4版がアップデートではなく完全に別ゲームだとしても。
 少なくとも現状でamazonにも楽天ブックスにもホビージャパンオンラインショップにも在庫は無く、取り寄せ状態。そしてamazonのマーケットプレイスならば、中古が定価より安く手に入る。
 で、TRPG部で「もっと馴れてきたら買おう」と将来的な購入を視野に入れている人もいるだろうけど、いざ欲しくなってからでは定価で手に入れるのは無理になるかも。
 過去には絶版となるサプリは公式サイトで告知が出てたので、今回もそれを踏襲してくれると助かるのだが。
 そんなワダツミは、使い込んで痛んできたし、今出回ってるのならエラッタも適用されてるだろうってことで、二冊目を昨年末に購入してたり。

 ほんでもってこれは同時にダンジョンマスターガイドもそうなってるのかもしれない。少なくともamazonに在庫は無く、取り寄せ状態。ホビージャパンオンラインショップならば購入可能だが。
 そしてダンジョンマスターガイドはDMだけが読めばいい本かというと、実はそうでもない。単純に「上級ルールブック」と言っていい存在で、砂漠や熱帯といった特殊な環境がルール的にどのような影響を与えるかが具体的に書かれてるし、様々な行動オプションや状態異常の解説も網羅。さらにはマジックアイテムの一覧も掲載されており、プレイングに欠かせない要素満載なのだ。
 無論「だから買え」というものでもないのだけど、手元に有ると無いとでは、自分の判断による対応力が段違いになるのは事実。

 あと呪文大辞典もamazonじゃ在庫無しで、取り寄せ状態。ホビージャパンオンラインショップなら購入可能
 大量に翻訳されたサプリで追加された新呪文の殆どが、様々に効果が見直された最新版として網羅してあり、言うまでもなくスペルキャスター必携の書。DMとしてもこれに書いてある呪文の存在が前提で、シナリオを組んでいる(プレイ当日に借りて読ませて貰う現状でもプレイは出来ているしね)。
 即ち、現在・将来的にスペルキャスターをプレイする人にとって、次回プレイまでの間にBBSで行われる作戦会議の時に手元に有るのと無いのでは、天地の差が出てしまう。「呪文の選択を考えたいから、家に読ませて貰いに行っていい?」と気合を見せてくれる分には歓迎するけど、その都度掛かる時間や交通費というコストを考えると、メリットは薄い。
 付け加えるなら、呪文大辞典にフォローされていないプレイヤーズハンドブック2も忘れてはいけない。これまた有力な呪文やプレイに役立つ情報が収録されている。だがもう絶版。

 つーわけで言いたい事をまとめると「プレイヤーズハンドブックもダンジョンマスターズガイドも呪文大辞典も、将来絶対に必要になる本だから、買うなら今の内。将来欲しくなったら中古をプレ値で買うことになるかもしれないよ」ということ。
 なんせ、既に流通在庫のみだとしたら、手遅れかもしれない勢いだから。

プレイヤーズハンドブック 必携
ダンジョンマスターズガイド 強く推奨
呪文大辞典 スペルキャスター必携
プレイヤーズハンドブック2 推奨
 ま、不所持でも「持ってないのかよ!」と責めたりすることはないけどね。単純に「持ってた方が面白いよ」って話である。
 それにこんだけ心配してみたけど、あっさり重版かかるかもしれないし。ただしまぁ本&TRPGオタクの経験上、「本(ルールブック)は手に入る内に買う」という習性が警鐘を鳴らしている(笑)
 というかぶっちゃけ「これは絶版で間違い無いよ」と断言なんかした挙げ句に万が一が発生しても責任取れないのです。はい。