編集王
#1〜#4



著者 土田世紀
出版社 小学館
掲載誌 ビッグコミック
スピリッツ
発行日 1994/7/1
定価 485円
オタク 2.25
パロディ 3.00
シリアス 4.75
ギャグ 1.75
痛さ 3.00
好きさ 3.50
「セコイ!セコイ! 俺がチャンピオンなんだから!! ヒロ兄ィは編集王目指さなきゃ!!」
 明日のジョーを目指した青年は夢半ばにして網膜剥離となり、幼き日から慕い続けていた兄貴分の仕事、漫画編集の道を新たなる人生のリングとする。
 巻数が多い作品ってことで初回から範囲四巻分なんてやったことを後悔。改めて読み返すと、サラッと流すなんて絶対無理ってほどに濃くて、何より面白い。
 一本気な青年が漫画編集の世界に殴り込みをかけ、様々な理想と現実の鬩ぎ合いを持前の闘魂で駆け抜けるのだが、それは純粋過ぎるゆえの異端であった。彼は体よく折り合いをつけることが大嫌いなのだ。
 本当にいい漫画とは何か。売れる漫画が正義なのか。出版社と作家で食い違う思惑と理想。漫画編集業界ならでわの、そして女性差別や仕事と家庭の両立といった普遍的な問題に鋭く切り込んでいくのだが、熱血勧善懲悪物で次々に解決とはならず、リアルで冷酷な商業主義は常にその場を支配し続ける。これは漫画好きとしては非常に切歯扼腕、憤懣やるかたないのだが、そんな中で一握りの理想家達が死力を尽くした孤軍奮闘を続け、小さな……ほんの小さな一矢を報いる様は極上に熱く、手に汗を握らされる。同じように出版業界を舞台とする漫画であるコミックマスターJのような、圧倒的な力と存在感で己の信条が他を圧倒することはなくても、そのリアリズムが強力なファクターとなって優るとも劣らないパワフルさを発揮してくれるのだ。環八、バカだけどカッコイイ!
  ただ、唯一残念でならないのは、この作品において「エロ=低俗で下らないもの」という評価が絶対であるという点。お色気路線は売れるんだけど、作品としては下の下であるという主張が貫かれているのだ。出版社側の意見が「売れりゃいいんだよ」だけで、訴えかけるものが全く無いのは勿体ない。プライドを持ってエロを描いてる気合の入った作家も登場させて、信念のぶつかり合いとかさせて欲しかったな。
 更にはエロ系同人活動(そして同人の殆どがそうだと断定)を糾弾し、主人公によって即売会場を破壊し、「良識あるオタク」の口から必要悪扱いさせたことには一人のオタクとして失望させられ、この作品の底が見えた気にさせられました。それでオタが改心しちゃうんだもんなぁ……。
ゴルゴ31
 もう「トキワ荘」の頃には戻れない。良くも悪くもそんな事を謳っているような気がします。商魂主義に走っている漫画業界についてメスを入れる漫画というだけでリアルタイムで読んでいた当時衝撃でした。
 あたり前ですけど商業主義は全く悪くないし寧ろカンパチの暴走こそが業界から見てもまた読者側から見ても不利益不愉快な行動であると思います(また作中でもそうでした)。しかし業界主義が覆せない今だからこそ、純粋に熱く面白い漫画を作りたいと叫ぶカンパチ達の精神は読者一人一人が持たなければならないものとも思います。
 また「セーラームーン」や「うる星」などパロティ的部分も今読むと面白く感じますね。連載当時のコミケが描かれていたりそういった視点から読んでも面白いかも。

 ボクサーから編集見習になり、空回りしながらもまっすぐ突き進む環八。
マンガが嫌いだけどマンガ編集をやっている先輩など……。
 どんなマンガ雑誌を作っているのか、よりも編集者も漫画家もいろいろな立場があるなかで一冊の雑誌を作っているということが描かれた作品。
 よくクビにならずに続けられてるな、というほど無茶に暴走する主人公の熱さにひかれます。

檸檬来夢
 明日のジョーによってボクシングに人生を預けてしまった、万年十回戦ボクサーの主人公が、網膜剥離によってボクシング人生を奪われ先輩に拾われる形で漫画編集の道へ進む。ボクシング以外何の娯楽も知らずに生きてきた彼が、自分にまっすぐな意見で漫画家や他の編集者にぶつかっていく様は、読んでいてすがすがしい気持ちにもなるが、同時にあまりにまっすぐな為に痛々しくもある。
 漫画家が編集の立場の物語を描いているので、どのへんが実体験を元にしているんだろうと考えると、にやりとしてしまう。キャンディキャンディの使用については、ワイド版では真っ白になっているが、その辺、出版社もしくは編集のどす黒さもみえる。まさに編集王らしい事件だったわけだ。
 同人誌即売会の話では、今と昔とでは少し考え方が変わってきていると思う。今は壁がそこまであるようには思えない。時代の流れも面白さのうちだと思う。

ワダツミ